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我が家の猫住(獣)民と常連たち 投稿

 我が家の猫集団 – 猫住(獣)民と常連達にまつわる話

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猫屋敷になった経緯その2 - お義理でもう一匹

アンジー、ブッチ、ドゥーゴルの三匹が我が家に来て二年近く経ったある日、TACが妹と電話で話している最中に私を呼んだ。「子猫、欲しい??」 彼女(TACの妹)はダブリン北西のとある町に住んでいて、当時複数の猫を飼っていた。そのうちの一匹が子猫を産み彼らの引き取り先を探しているとのこと。家にはもう三匹もいるから十分だろうと思ったがTACはどうにも断りきれない様子だった。週末に二人でその子猫達を見に行くことを約束して電話を切った後TACは言った。「気に入らなければ無理に引き取らなくてもOK(⁉)」とは言え、わざわざその町まで出向いて可愛い盛りの子猫を見てしまったらどう考えても手ぶらで戻って来る筈がない。やむを得ず、猫用バスケットを抱えてバスを乗り継ぎ(その当時はまだ車を持っていなかった)TACの妹の家へ行った。
我々が着いてみると、生後二ヶ月強の4匹の子猫が自分達の産まれた納屋の前で互いに戯れながらフワフワしていた。4匹中2匹は白黒のブチ猫で後の2匹は半長毛の三毛猫である。一匹以上引き取る気は毛頭無かったので取りあえずTACの妹にそれを告げ選択に取りかかった。我が家の先住猫の一匹が雌で雄が二匹の為、出来れば違った毛色柄の(白黒、きじとら以外の)メス猫が我々の希望だった。となると選択肢は限られる。2匹の三毛猫のうち大きい方は人間が苦手なのか、我々から遠ざかって行く。残った小さい方の三毛猫をつまみ上げてよく見ると何とも不細工な顔をしているが愛嬌がある。長毛種はあまり自分の好みではないが今更どいつもいらないと言う訳にもいかず、仕方なく(オイオイ)我々はその三毛猫を連れ帰ることにした。そうして、帰宅途中獣医に立ち寄り健診とワクチン接種を済ませ、籠の中で無心に眠る毛糸玉の様な子猫と共に腹を空かせた三匹の獣が待つ我が家へと急いだのだった。

猫嫌いElmo (エルモ)
エルモ生年月日:2000年7月。ミレニアム(西暦2000年)猫。我が家でただ一匹の“culchie”。一匹オオカミ猫でもある。ダブリン郊外に住む同居人の妹から貰い受けた半長毛の三毛。名前の由来は、走る姿が(毛色のせいもあり)光の球のように見えたことから、「セント・エルモの火」のエルモを拝借した。セサミ・ストリートのエルモに由来すると信じる人もいる。
走り回る時以外はまさに小さな毛糸玉か安物のぬいぐるみの様に見える子猫であった。先住猫には近付こうとせず、興味津々で寄って来る彼らを威嚇しまくるので最初は怖がっているのかと思ったが、ただ単に猫嫌いなだけだった。実際彼女は今でもぽつんとひとり(一匹)でいる事が多い。小さい時から人間には馴れていて、人がそばを通ったり目が合ったりするとほぼ必ずニャーニャーと鳴き、話しかけてやると調子に乗ってまくし立てる超鳴き猫である。時々ウニャウニャと本当に何かしゃべっている様な鳴き方をする。周りに人がいない時にもひょっとしてブツブツ言っているのではないだろうか。(こちらが説教を始めると獰猛な目つきで睨みつけ唸り声を発することもしばしばある。) もともと普通よりは大きめの子猫だったがいつの間にか驚くほど巨大化し、今では我が家で一番重いヘビー級猫になった。そのずっしりとした体を揺らして歩く姿はまさに毛皮を着た子豚そのものである。子供の頃は抱き上げられるとしばらくの間辛抱していたが、巨体になってからは一刻も早く逃れようと唸りながらしゃかりきにもがく。また、最近は滅多にやらないが以前はよく仰向けになり大きないびきをかいて寝ていた。
もう一つヤツが近頃あまりやらなくなったのが脱走の機会を狙うことである。7~8年前のある朝、起床して階下に降りようとした時玄関ドアのガラス越しに必死で鳴き叫ぶ猫の姿が目に止まった。数秒後それが屋外にいるエルモだということに気が付いた(⁉)。同居人の不注意で一晩中閉め出されてしまったのだ。その前夜、私の就寝後へべれけになって帰って来た同居人が玄関の扉を開けた際、エルモは喜び勇んで家を飛び出したに違いない。その頃ヤツはほとんど常に玄関の扉の前に陣取って虎視眈々と外に出る隙をうかがっていた。(呆れたことに同居人はその朝教えられるまでエルモが夜遊びに出かけた事を全く知らなかった。)
エルモは風呂嫌いだが石鹸の匂いには勝てない。人がシャワーを浴びて出て来ると足元に擦り寄ってすねを舐め回す。動作が鈍く変わり者の為か我が家のオス猫から強烈な不意打ちを食らう事が頻繁にあるが、反撃に出たり他の猫(または人間)に八つ当たりする事も少なくない。彼女は軽く小突かれるだけでも断末魔の叫びを上げるので我が家でしょっちゅう死闘が繰り広げられている様な錯覚に陥る。とにかくエキセントリックという言葉がふさわしい猫である。
【追録】何ヶ月も前(2018年2月辺り)からエルモが痩せ始めたことに気付いていたのだが、食欲が低下するわけでも頻繁に嘔吐するわけでもまた元気消失するわけでもなかったため加齢による体重減少なのだろうと高をくくっていた。思えばその前後からしょっちゅう水を飲むようになったので腎臓病がすでにある程度進行していたのかもしれない。元来エルモはあまり毛繕いをしない(従って毛艶が良くない)うえ下痢や便秘は珍しいことではなく、我々にとって症状を見過ごすのは至って容易だったと思われる。(言い訳がましく聞こえるだろうが…) そのうちヤツは出しっ放しにしてある器の飲み水ではなく毎朝晩新鮮な水道水を要求しだし、浴槽の排水口周りに残っている蛇口から滴り落ちた水を好んで飲み始めた。そして水欲しさに夜中だろうが早朝だろうが耳元で鳴き叫んで我々を叩き起こすのが日常となり、一方でどういうわけだか水がほとんど無くても浴槽の底や陶器製水皿のふちをぺろぺろ舐めていることもよくあった。
7月の初め頃になってエルモの胴回りが骨と皮に近い状態であるのに改めて気付き少々動揺させられたものの彼女は相変わらず食欲旺盛でよく喋り熱心に爪とぎをしたりソファや階段を上り下りする(もう小走りすらしなくなっていたが)など目立った衰えを見せなかったし、エルモの年齢や(裏庭の主だった)カフカの経験から最早この段階で獣医に何が出来ようかと考えたので自然の成り行きに任せることにしたのだった。以降は毎食時高価な猫餌を食べさせたり人間様の食べる牛肉を細かく切って生のまま猫餌に混ぜ(5匹全員に)与えたり(エルモはこれに目がなかった)して、出来るだけ贅沢な食事をさせてやったが、やがて唯でさえ砂かけを全くせずややトイレ癖の悪い当猫はますますズボラでだらしなくなり、猫用トイレ近くの玄関マットや食事室の窓際の床に排泄したり糞をあちこちに落としたりするようになった。目の前にトイレがあるにもかかわらずなぜわざわざ二部屋先まで移動して用を足さねばならないのか? 我々は首をかしげながらも観念して奴のやりたいようにさせるしかなかった。(今にして思えばその行動は老年性認知症の現れだったのかもしれない) 所構わず…というわけではなかったものの、四六時中足元に注意を払いながら家の中を歩くのが避けられない状況になりかなり煩わしかったが。同じ頃、エルモはそれまで好んで昼寝をしていた居間のソファの背に上ることをあきらめ、ソファ脇のサイドテーブルの下をねぐらにし始めた。
8月後半のある日当猫の口周りに乾いた血の塊らしきものを見つけ、腎不全で口内炎を併発したカフカの顔が脳裏に浮かんだ時にはもう先は長くないと覚悟。それから数日後エルモがサイドテーブル下のねぐらに座り口から鮮血を流しているのを目撃し彼女との別れがいよいよ間近に迫っていることを痛感させられたのだった。胸から両前足にかけての被毛を血塗れにしつつもその日エルモはねぐらを離れて玄関ホールの階段前にデンと寝そべったり晩飯時に台所の扉前で列を作ったり夜二階の寝室へ行き窓際でくつろいだりといつもと変わらぬ様子で我々をいささか拍子抜けさせてくれた。だが翌日のエルモは打って変わって、サイドテーブル下のねぐらですっかり生気を失ったようにぐったりしていた。2~3度居間と玄関ホールの間をおぼつかない足取りで行き来するのを見かけたがそれ以外は餌の時間になってもねぐらから動かず、夕飯の牛ひき肉を鼻先に置いてやった際もひとなめふたなめしただけでその後は餌皿を枕にただ横たわるのみ。(冗談か本気か、同居人は「明日の朝何も食わなかったら動物病院に連れて行こうか」などとあまりにも楽観的なことを言っていた。能天気な奴だぜガハハ) 次の朝居間の入り口横で尿溜まりに囲まれ横になっているエルモを発見。濡れた床を掃除している間当猫は渋々体を起こし僅かばかり位置を変えたものの昼過ぎになっても同じ場所で両目をしっかり開けたままじっと寝転んでいた。午後二時を回った頃、冷たい床の上では寝心地が悪かろうと布団代わりに古いシーツを敷きその上に寝かせてやったが、嫌がるように弱々しく身をよじった後は再び敷物の如くだらりと横になり、頭や体をさすってやってもほとんど反応がなく話しかけても鳴き声を発せずに口を開くのみだった。もう何をやろうが無駄なところまで来てしまったのだろう。エルモはかろうじて息をしながらガラス球のような表情のない目でただ横たわっている。それから夜にかけて彼女は何回か起き上がろうとするかのように前後の足をバタバタさせるも最早四肢に力が入らない状態にあった。それでも一度だけやにわに体を起こして数秒間座ったのを目撃したが…。その晩の10時数分過ぎ、低く弱々しいがはっきりした「なー」という鳴き声を耳にして反射的にエルモの方を見ると当猫は(一声あげながら)頭と両前足を小さく振った後四肢を伸ばし(両目をより大きく開き)空気を求めるように口をぱっくりあけてそのまま事切れたのだった。さすが鳴き猫エルモだ、最後の瞬間にも黙っちゃいなかった。
ひひひ

 

 

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