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旅先で遭遇した事件《インシデント》 投稿

 旅行中または前後に出くわしたトラブル 〔旅のインシデント〕

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連絡バスでの偶然

旅先はほとんど初めての場所が多いため、当然土地勘も無く、移動には案外骨を折る事がしばしばある。バンクーバー (カナダ)でも一度、学校からホームステイ先へ戻るのにとんでもない時間をかけてホスト・ファミリーを心配させたが、その数年後にロンドンで遭遇した出来事はより深く記憶に残るものとなった。

Westminster Abbey1993年(だったと思う)十二月末、ロンドンのウィンブルドンに住む知人を訪ねて単身で初めてイングランドに来ていた。
その日の午後、滞在先の知人宅から中心部へ一人で観光に出掛け、夕方六時頃帰路につこうと 地下鉄に乗り込んだ。しばらくして急を伝える様な調子の車内放送が聞こえてきた。「~!@#$%^&*()_+!?...」 当時イングランド英語(他の英語もだが)など大の苦手だった為、内容は全く理解出来なかったが、ひとまず周りの乗客を観察することに。電車はまもなくある駅で止まり、乗客達は一斉に出口へと向かった。やむを得ず人の波について行くと道路脇に「ウィンブルドン」と表示されたダブルデッカーが見えてきた。結局、原因は分からなかったが、その路線が途中駅で運行停止になるため、その駅から先に行きたければ代行バスに乗り換えてくれという旨の放送だったらしい。他に戻る方法など知らなかったので、とりあえずそのダブルデッカーに乗車して前方の座席に座った。
バスが走り出して10~15分後、はたと思った。「このバス、本当にウィンブルドン駅前に止まるのだろうか?駅の近辺に停まるだけだとしたらこの暗さではどこで降りれば良いのか分からない。」ただでさえロンドンで初めてのバス乗車で目的地までの所要時間など知る由も無いうえに(地下鉄以外の移動手段は頭に無かった)、車外はすでに真っ暗で雨さえ降っているので知人宅周辺の景色を見分けられる筈も無い(車内に停留所の案内は無かった)。運転手に確認すべきだったと後悔しながら辺りを見回していたところ、ふと真向かいの座席のインド系男性と目が合った。彼は笑みを浮かべてこちらを見ている。妙に愛想の良さそうな人だと思いつつ軽く会釈すると、相手はこう言った。「あなた、xxxさんのところに滞在してるでしょ?」 驚いて彼の顔をぽかんと眺めていると相手はさらに続けた。「帰り道分かる?私も帰宅するところだから一緒にどう?」
隣人なのだろうかと少々いぶかりながらもバスを降りてから彼に付いて行くと、やがて見慣れた建物にたどり着いた。知人宅である。やれやれと思い例の男性に目をやると、なんと彼は鍵で玄関の扉を開けていた。「私達、最上階に住んでるけど寄って行く?」そう言われて訳も分からず一緒に玄関横の階段を上がって行った。
St Paul's Cathedral自分は地上階(ground floor)に寝泊りしていた為それまで全く気付かなかったが、その家の屋根裏は居住用に改造されており、そこには簡易台所とトイレ・シャワー室の付いた広々とした空間があった。(地上階と屋根裏部屋の間にはさらにもう一つの階が存在した。) 中に入ると一人の若い西洋系の女性がスケッチブックの様なものに向かい何かを描いていた。もう彼らの名前など思い出せないが、二人は地方出身でロンドンの大学に通う学生とか。彼らはその屋根裏部屋を間借りしていたのだった。例の男性は家の中だか外だかで二、三度私を見かけたらしい。もうその時には5日以上も知人宅で過ごしていたにもかかわらず、こちらは彼らの存在など露ほども知らなかった。
紅茶でもてなされながら少し話をした後、そのフレンドリーな二人に再度お礼を言い、こんな闇夜の灯火ごとき偶然があっても良いのだろうかと思いながら最下階にある自分の部屋へ戻った。
あの日、もし自力で帰らなければならなかったら、冬の暗いロンドン南西部の通りを何時間も彷徨う羽目になっただろう事は言うまでもない。

因みに、この旅の最終日ウィンブルドンからヒースロー空港へ向かう際にも事故か何かで地下鉄(一部路線)が運休になり、重い荷物を抱え不慣れな土地で代行バス二台とタクシーを乗り継いで移動するという踏んだり蹴ったりな体験をした。しかし、当時は外国旅行の経験も浅くコミュニケーションにかなり苦労した旅だったが、よく無事に帰ってこられたものだとつくづく思う。

 

 

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