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その他もろもろ(四方山話) 投稿

 アイルランド・ダブリン発の四方山話 "もろもろの事柄"

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Odd facts about old Ireland (アイルランドに関する奇妙な事実)

2014年1月30日
今日はかつてあった、もしくは現在もあるアイルランドの妙な規則、慣習について少しばかり書こうと思う。いくつかの事柄/事実は法的に禁じられた事でもアイルランドに限った事でもない。以下、いずれもアイルランド庶民から得た知識である。

1. 女性がパブで公然と酒を飲む事は社会的に認められなかった

万国共通と言ってもおかしくない事情でこれ自体それほど珍しいことではないが、今のアイルランドのパブ文化からはいささか想像し難いのではないだろうか。はっきりした年代は不明だが、恐らく30年代頃まで女性は正面玄関からパブに入り表立って飲酒する事を許されなかった。一部のパブには「Snug」と呼ばれる女性専用の空間があり、女達は正面玄関とは別に設けられた入り口から入店しSnugに身を隠して酒を飲んでいたらしい。きっとその頃は女性用トイレもおかしな所にあったに違いない。

2. タブロイド紙「ニュース・オブ・ザ・ワールド」の輸入と販売が禁止されていた

現在は廃刊となってしまったがUKの老舗日曜大衆紙「ニュース・オブ・ザ・ワールド」は50~60年代頃アイルランドで "性犯罪ニュースを報道する唯一の新聞" としてその名を馳せていた。誰かがイングランドへ出かけるというと人々は「ニュース・オブ・ザ・ワールド」紙を土産に持ち帰るようせがんだとか。禁止の理由はご想像の通り、カトリック・エトス(価値観、信念、行動様式)が法律に反映されていた為である。「ニュース・オブ・ザ・ワールド」紙に対する禁止令は2011年の廃刊まで続いた。

3. ポルノ雑誌は禁制物だった

上記と同じく宗教がらみの理由によるもので、1990年代頃までポルノ雑誌は禁忌であった。ある知人(言うまでも無くアイリッシュの男性)が1960年の半ば親類を訪ねてロンドンに行った際、ユーストン駅の外で裸体の女の写真入りポスト・カードを売っている屋台を見つけたそうな。当時好奇心旺盛な14~15歳だった彼は店先に立ったまましげしげとそれらを眺めていると屋台のおやじに「Are you Irish? Piss off!」と言われたとか。わはは アイルランド人にはそんな風にためつすがめつするだけでポスト・カードを買わない類いが多かったので、屋台のおやじの人物鑑識眼が養われたのだろう。未だに法で禁じられているポルノ雑誌がいくつかある一方、プレイボーイ誌が法的に容認されたのは1995年の事である。但し、合法的だった時代もあるらしい。

4. タンポンの販売が禁止されていた

禁制事項が続くが、「若い女性にとって性的な刺激になるかもしれない」という恐れから1944年タンポンがアイルランドの市場から締め出された。1950年代中頃には再び販売されるようになったらしいが (未確認)、生理用品のテレビコマーシャルは80年代末まで禁止されていた。("prudishness"とはちょっと違う。) まぁ、女性に対する差別・抑圧がまかり通っていた時代のカトリック教国アイルランドではこの程度の事はさして驚くに至らないと思うが。因みに、タンポンの販売にケチをつけて禁制に一役買ったのは、かの(カトリック)ダブリン大司教の John Charles McQuaid (ジョン・チャールズ・マッケイド)だった。

5. 産院や献血所などで患者/供血者にギネスが与えられた

産院で入院患者に150ml 程度だが毎日ギネスが処方されていたのはそんなに昔のことではない。ギネスを摂取することにより赤血球数の低下を補えると考えられていた為らしい。献血所では今でも供血者が望めばギネスに限らずラガー・ビール、ソフト・ドリンクなども供与している。採血量は一律で470ml。知り合いの献血常連者によると"A pint of blood for a pint of Guinness!"だそうだ。献血所を管理している「The Irish Blood Transfusion Service」はビールの2パイント目を要求されても嫌とは言わないとかほぅ、悪くない。(パブの代わりに献血所で社交付き合いというのも乙なものかもしれない。)

6. どんな場合でも人工妊娠中絶は違法だった

2013年7月に一部合法化されるまで一切の人口妊娠中絶は法律で禁じられていた。ご存知の方もいらっしゃるだろうが、2012年の10月ゴールウェーで流産しかかっていた女性が病院側に人工妊娠中絶手術を拒まれ敗血症で死亡するという出来事があった。この一件で中絶をめぐる議論が高まりアイルランド政府はようやく重い腰を上げた訳である。今回容認された人工妊娠中絶は母体の生命が危険な状態にある場合(妊娠中の女性が自殺を犯す危険性が非常に高い場合も含む)に限っている。母体の安全よりも胎児優先のプロ・ライフ派がまだまだ多いこの国で妊娠・出産するにはそれなりの覚悟が必要なようだ。因みにEU加盟国のうち、それ(2013年7月)以前に妊娠中絶を全面禁止していたのはマルタとアイルランドの二カ国だけだった。マルタでは現在もそうである。

7. 離婚は憲法の規定に違反するものだった

離婚は1937年以前には存在していたのだが、その年以降から1995年の国民投票で改正が決まるまで憲法で禁止されていた。(思い切って重婚可能にでもすればちょっと面白かっただろうに…) 1937年以来初の離婚が高等裁判所で認められたのは国民投票から14か月後の1997年1月の事であった。合法化されたといっても、「過去5年間のうち合計4年以上の期間別居している」などの条件を満たしていなければ離婚申請さえも出来ない。離婚の申し立てを裁判所に持ち込むまでがなかなか厄介なようである。因みに離婚が許されなかった頃はカウンセリングに通うとか別居するなどの措置をとっていた。

8. 協議離婚(「公正証書{強制執行認諾約款付き}」等なし)であっても法廷費用/手数料が必要

これは国際的に見ると決して珍しいことではないと思うが、公正証書を作成せずに夫婦のみで離婚の手続きを進める場合発生する費用はほぼゼロ円の日本国民にとっては理不尽なことのように感じられるのではないだろうか。先にも書いたが離婚申請は法廷に提出されなければならないため、事務管理費用などで最低でも約50~100ユーロはかかる (と言ってもこれは15年程前のことで現在は恐らく値上げされているかと思われる)。もし、それに加えて弁護士が必要となれば、故意に裁判を長引かせ依頼人に対して不当な報酬を請求する悪徳法律家がごろごろいるこの国では何千ユーロもかかってしまう可能性がある。人によっては離婚も結婚と同様、いやそれ以上に多額の出費を伴うものになりかねない。

9. 前妻・前夫(制約付き)にも寡婦(寡夫/鰥夫?)年金が支給される

それまでにある程度の税金を払っていれば前夫・前妻の死後、故人の配偶者だけでなく前妻・前夫にも寡婦(寡夫/鰥夫?)年金を受け取る権利がある。例えば、離婚後に元夫が別の相手と再婚したとする。元夫の男性が死亡した場合、当然その配偶者である再婚相手は寡婦年金を受け取ることになるが、元配偶者である女性(元妻)にも、再婚や同棲をしていなければ寡婦年金を受け取る権利が生じる。その元妻がどんなに金持ちであっても受給の資格はあるそうだ。実際に元配偶者にとって寡婦(寡夫/鰥夫?)年金を受け取るのは容易いことなのかどうか分からないが、それこそ税金の無駄遣いと言えなくも無い。こんな事をやっているからこの国はいつまでたっても借金漬けなのだな。

10. 政治家の公務経費の請求には領収書や受領書など不要である

詳細な説明は省くが、この国では議員報酬と公務経費は別々に支払われる。政治家は経費の請求をする際に証明となるようなものは特に必要でないため必然的に不正請求が多くなり、大半の国会議員はこの制度を利用して私腹を肥やしていると思われる。言い換えれば議会は犯罪行為を咎められずに私利私欲を満たせるよう、こういった制度を導入しているわけである。(ウェストミンスターとは大違いだ。) 給与の高さは世界一と言われるアイルランドの政治家、このずる賢さをもってしても国家経済の破綻は食い止められなかったようだ。ウィンク 膨大な負債を抱えるアイルランド政府は住民に負担をかけるのではなく国会議員の給与を引き下げるべきではなかろうか。(と言ってみたところで、そんなことは起こるはずもないだろうが。)

まあ、ざっといくつか紹介したが、他にも何か思い出したら後日改めて投稿しようと思う。

 

 

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