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欧州《ヨーロッパ》のラグビー 投稿

 『ヨーロピアン・ラグビー』 欧州ラグビー・ユニオンについて

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ハイネケン・カップ騒動の一部始終
今回は、書こう書こうと思いつつ先延ばしにしていた「ハイネケン・カップ」騒動の顛末記をまとめようと思う。およそ二年間に及んだ欧州のクラブ競技会をめぐる争議が今年4月の欧州ラグビー・チャンピオンズ・カップ (The European Rugby Champions Cup) 設立をもってようやく終結を迎えたわけだが、そこに辿り着くまでには実に様々な紛糾と思わぬ展開があった。ここではその騒動における主な出来事を追いながら経過を簡単に振り返ってみよう。

Heineken Cup: The dispute over the European cup

2014年9月15日
2013~2014年シーズンを以って、欧州クラブ選手権大会「ハイネケン・カップ」が19年間の幕を閉じた。一時はシックス・ネイションズ(RBS六カ国対抗戦)存続の危機さえも噂されるほど欧州ラグビー界内部の対立を深めていた一連のいざこざだが、先月14日には新大会の試合日程が発表されるなど、様々な局面を経てようやく決着を見ることになった。以下はその大まかな顛末である。


~ 全ての始まりはトップ14だった

2013-2014年勝者トゥーロン
ハイネケン・カップ2013/14シーズンの覇者トゥーロン

2007年にもほぼ同様の揉め事があったのだが、筆者の記憶では確か今回の騒動の発端は以下の通り。
長年にわたってフランスのクラブの間でハイネケン・カップの運営方法に対する懸念がくすぶっていた。イングランドのクラブがそれに同調し両者は共同戦線を張って、現行のハイネケン・カップ出場資格規定や収益金の分配方法などの修正を訴え始めるが、ハイネケン杯の組織団体である European Rugby Cup Ltd "ERC - 欧州ラグビーカップ機構" はなかなか耳を貸そうとしない。遂に業を煮やした Ligue Nationale de Rugby ("LNR" トップ14の統括運営組織) と Premier Rugby Ltd ("PRL" プレミアシップの統括運営組織) は2012年の6月、その2年後となる2013~2014年シーズンを最後に大会 ("Heineken Cup"及び"The Amlin Challenge Cup") から撤退することをERCに通達した。


~ トップ14とプレミアシップが表明したその不満の内容とは

彼らが主張する問題点を箇条書きにしてみよう。
➤ 全リーグにおいて大会出場資格の取得はリーグ成績に基づくべき
➤ 収益金の分配方法が不公平
➤ 大会が商業的にうまく運営されていない
➤ クラブの代表者による組織統制権の範囲が制限されている(プロ12のチームに有利な運営がなされている)
➤ 準々決勝はシックス・ネイションズの後ではなく前に(過剰な試合数問題に関連)
➤ 決勝は4月に(リーグ戦優先のため)
ざっと説明すると、フランスとイングランドのクラブはそれぞれリーグ成績表の6位以内に入らなければ大会出場資格を得られないのに対して、プロ12からは最低でも10チーム––特にスコットランドとイタリアのチームは順位に関係なく自動的に––参加できる。競技会収益の52%をプロ12のチームが受け取り、残りの48パーセントをフランスとイングランドのクラブで分け合うのだが、1チームあたりの取り分を計算するとプロ12のチームの方がフランスとイングランドのクラブより多く割り当てられている。また、ERCの理事会はフランス、イングランド、ウェールズのクラブ代表者に数で勝る "シックス・ネイションズ"6協会の代表者によって牛耳られ、クラブ側は半ば翻弄されている。さらに、ERCはハイネケン杯の商業的な価値を最大限に引き出すことに失敗している (クラブ側の見方)。トップ14とプレミアシップはこの様な現状に対して不満の声を上げていた。


~ トップ14とプレミアシップが望んだものは何か

次は彼らが提示した修正案を見てみよう。
➤ 出場チームの数を24から20へ減らす (内訳は各リーグ成績の上位6つのチームと前回優勝者及び準大会 Amlin Challenge カップの勝者。もしくは、プロ12の6チームについてはウェールズ、アイルランド、スコットランド、イタリアからそれぞれ最上位の1チームのみに出場を保証し、残りの二枠は能力に基づいて決定する。)
➤ 準大会の Challenge Cup に加え第三レベル(下層)の競技会を設ける (三部構造の大会)
➤ 収益金を3リーグの間で平等に三分割する
➤ 新市場への拡大を図る (より良い条件の放映権契約を結ぶなど)
➤ 大会運営組織の再編成 (クラブ代表者の増員とプロ12による表決権の縮小)
能力本位型の競技会出場資格取得規定や大会形式の改変、そして運営組織内のクラブ側による勢力拡張と財政面での強化がフランスとイングランドのクラブの狙いだった。しかしながらこれらの点をめぐるトップ14/プレミアシップとERCの話し合いは長らく平行線をたどり、2012年6月1日痺れを切らしたトップ14とプレミアシップはとうとう大会からの離脱をERCに通告したのだった。


~ 脱退通告後何があったか

多くの関係者は彼らの離脱宣言を単なる威嚇とみて、実際に脱退することはないだろうと考えていた。ERCも彼らが本気であるとは思っていなかったためか、積極的にその問題に取り組もうとはしなかったようだ。その年の夏から秋にかけて交渉やら会談やら会議やらが行われたものの、トップ14/プレミアシップとERCの両者は押し問答を繰り返し (当然、失うものが大きいプロ12のクラブからの激しい抵抗があった)、話し合いは袋小路に入り込んだかに見えた。そして2012年9月、舞台裏で打開策を探求していたイングランド "プレミアシップ" のクラブがBT Visionとの1億5200万ポンドの放映権契約(既存のハイネケン杯放送局"Sky"提示額の50パーセント増し)に同意したことを発表し、欧州のラグビーは更なる混乱に陥ることとなる。その契約の内容は2014年シーズンから4年間欧州競技会におけるプレミアシップ・クラブの試合を独占的に放送する権利を含むというものであったが、声明直後にERCがプレミアシップ側には欧州競技会の放送権を売る権限はないと主張し、Skyとの契約更新を発表。これによってERCとプレミアシップの関係に新たな亀裂が生じ、ハイネケン杯の将来に暗い影を投げかけた。プレミアシップはERCとSkyに圧力をかける目的でそのような行為に及んだのであろうが、ERCもまた挑発的な態度でそれに応じたのだった。その後さらに利害関係者間の会議やら裏工作やら悶着やらが重ねられる一方で、トップ14のクラブは自国ラグビー協会 "Fédération française de rugby (FFR)" からハイネケン杯離脱計画を断念するよう勧告を受けたり、一部の統率者間でBT Visionとの契約の詳細不足に対する懸念が広がるなど、トップ14とプレミアシップの両者にとって前回(2007年)の繰り返しになる恐れも否定できない状況になっていった。


~ トップ14とプレミアシップが英仏新大会創設の声明を公示

特に何の進展も無いまま半年以上が過ぎ––冷却期間もあったが––2013年5月に行われたトップ14(LNR)/プレミアシップ(PRL)とERC間の話し合いの後は交渉の場さえ持たれない状態が続いた。そんなある日、寝耳に水のごときニュースが公表される。要求の通る見込みは殆どないと感じたトップ14(LNR)とプレミアシップ(PRL)の両リーグは2013年9月10日、次のシーズンからハイネケン杯に取って代わる(英仏のクラブとそれ以外も含む)新大会を創設することを表明したのである。プレミアシップのMark McCafferty会長いわく「もはや交渉の段階は終わった。早急に対策を講じる必要に迫られている。」この行動も半ば威嚇のつもりか、またはその翌日ダブリンで開かれる予定のERC理事会会議に影響を及ぼす意図があったのだろうと思うが、あまり効果的なものにはならなかった。9月22日にはLNR / PRLが新大会の名称 "ラグビー・チャンピオンズ・カップ" や構想などについての声明を出すものの、その後国際ラグビー評議会 (IRB)と両国(英仏)協会側による設立認可問題やフランスの一部のクラブによる新大会参加拒否宣言 (目的はLNRへの抗議行動) などがあり、新大会創設は最初から難航が予想された。


~ ウェールズの地域代表チームがラグビー・チャンピオンズ・カップへの全面支持を表明

同年10月22日、またもやERC会談の前日に新たな波紋を起こす爆弾発言があった。ウェールズの地域チーム4つの統括組織である Regional Rugby Wales (RRW) が新大会ラグビー・チャンピオンズ・カップを全面的に支持する意思を表明したのだ。これもまた翌日のトップ会談で次季の欧州競技会に関する諸々の変更が徹底的に検討されるよう仕向けるため、そして自国のラグビー協会 "Welsh Rugby Union (WRU)" に圧力をかけるためのRRWの挑発的な動きであったが、引き続き一丸となって新大会設立計画に抵抗することを望んでいたアイルランド、スコットランドそしてイタリアのチームにとっては大きな打撃となるものだった。(もちろん英仏同盟にとっては大きな進展となった。)RRWの発言が功を奏したのか、翌二日間にわたるダブリンでの会談(LNR と PRLはボイコットで不在)で大会形式と収益金の分配に関する英仏クラブの提案が受け入れられたが、PRLは「問題の半分しか解決されていない」として気のない態度を見せた。その約三週間後、PRLにとって事態は好ましくない方向へ進む。フランスのラグビー協会 "FFR" がフランスのラグビー法規を持ち出して自国のクラブを牽制し、翌シーズンのハイネケン杯にとどまる事を条件に各クラブあたり200万ユーロの現金提供を申し出たという報道があり、また11月21日にダブリンで行われたイングランドのラグビー協会(RFU)を除く5協会 [ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリア] の話し合いに伴って、次季(20チーム形式)欧州競技会についての共同声明が出された—内容は主に10月下旬の会議で合意に達した事項を再確認するものだったが、暗に「イングランドのクラブの参加不参加に関係なく翌シーズンもERC主催/運営で20チーム形式大会を設定する」ことを伝えていた。(後にスコットランドのラグビー協会 "SRU" がそれに異議を唱え計画は一時凍結されたが。)


~ トップ14の劇的な方針転換

2006~2007年にも、次季ハイネケン杯をボイコットするとの脅しをかけたフランスは数ヵ月後にそれを撤回していた。今回は当時よりも案外長い間持ちこたえたわけだが、2013年11月28日オルリーで行われたトップ14代表者とフランス・ラグビー協会との間の会談後、フランスのクラブはラグビー・チャンピオンズ・カップ設立計画から手を引き翌シーズンのハイネケン・カップに参加する意図を明らかにした。(結局彼らは協会からの増大する圧力に屈してしまったわけだ。) 但し、彼らが発表したことはフランス語を母語とする者でさえその正確な理解が困難で要領を得ないものであった。LNRいわく「2014~2015年は過渡的なシーズンとしてERC運営のもと現行の規約での大会を認める」またその一方で「二つの条件付で(ハイネケン杯の)新しい協約に調印する用意がある。一つ目はイングランドのクラブが参加する事。二つ目はERCの代わりに新しい組織が結成される事。翌年2月までにその二つの条件が満たされるめどが立てば2015~2016年シーズンから20チーム形式大会の参加に同意する。」とも話しており、(何とも曖昧で矛盾した発言である。これもフランス流なのだろうか。) PRLばかりかERCまで困惑させた。これを受けてPRLのMark McCafferty会長は「オルリーでの会談前にLNRと言葉を交わしたが、"過渡期" には驚いた。我々が翌シーズンの欧州大会に参加しなければ彼らはどうするつもりなのか。再度彼らと話す必要がある。」と述べ (そろそろフランス人は信頼できないことが分かってもいい頃だヒヒヒ)、その後場合によってはERC主催/運営の2014~2015年シーズンの大会に参加の可能性を示唆した。(同時にウェールズの地域チームはどっちつかずの状態に置かれる。)


~ イングランドのクラブが次季ハイネケン杯のボイコットを満場一致で票決

ようやく長いトンネルの先に灯りが見えてきたかと思いきや、フランスのクラブのハイネケン杯ボイコット撤回発言から一週間後の2013年12月5日、イングランドのクラブが2013~2014年シーズン後はいかなるERC主催/運営の競技会にも参加しないことを改めて明言した。同日ロンドンで開かれた5時間に及ぶトップ会議で翌シーズンのハイネケン杯をボイコットすることが再確認されたのだった。彼らは少なくとも6週末分の試合日程の穴を埋めようと、南アフリカのチームとの大陸間競技会や第二リーグの2クラブを加えプレミアシップを拡張する、またはウェールズの地域チームとの合同リーグ設立 (RRWもその考えに熱心だった) などを検討し始めた。その後、欧州クラブ競技会の将来を救うため毎日のようにイングランドのラグビー協会(RFU)と他5協会の間で非公式の話し合いがもたれたり、独立仲裁人が議長を務める6協会の会談が行われたりし、遂に2014年1月8日国際ラグビー評議会 (IRB) が初めて公式に論争への介入を発表した。彼らは「IRBの規則上、我々はそれぞれの国のラグビー協会が承認しないいかなる国際競技会も支持しない(どんな競技会もIRBと協会の認可が必要)」との見解を述べ、全ての利害関係者にとって満足のいく真に全ヨーロッパ(六カ国)を代表するラグビー競技会設立を目指して協会とともに積極的に取り組む立場を明らかにした。その間、PRL [イングランドのクラブ] とRRW [ウェールズの地域チーム] はハイネケン杯脱退後の選択肢としてアングロ‐ウェルシュ・リーグ (16クラブのアヴィバ・プレミアシップ) の設置に合意しその計画を推し進めていたが(それが成立すれば当然ウェールズのチームは次季からプロ12を抜けることになり果てはプロ12の崩壊に繋がる)それと同時に新欧州競技会設定の大きな障害となっているテレビ放送権と大会運営組織の問題が克服されるという期待も捨ててはいなかった。


~ シックス・ネイションズ(6カ国対抗戦)委員会の関与とRFU最高責任者の和平調停努力

ここへ来てシックス・ネイションズの委員会が難局打開のため助け舟を出すことになる。PRLとRRWも委員会の参与を受け入れたらしく、2014年2月12日にパリで行われたシックス・ネイションズ委員会主催の会議に揃って出席し問題解決への意欲を示した。1月末から3月末にかけてRFU最高責任者Ian Ritchieをまとめ役としてシックス・ネイションズ委員会の各ラグビー協会代表者とクラブ関係者の間で新欧州クラブ杯についての会議が重ねられ、具体的な収益金の分配方法や新たな統括団体等をめぐって話し合いが行われた。難題とされたBTとSkyの二重放映権問題もRFU最高責任者Ian Ritchieが仲介者として両者との交渉にあたり、法廷に持ち込まれることなく、放送権を分担する事で合意に達した。こうして、2013~2014年シーズン終末のERCの解体、スイスに拠点を置く新しい管理組織の設立など最終的な詳細が策定されるとともに、新しい欧州クラブ杯の未来が見え始める。


~ そして欧州ラグビー・チャンピオンズ・カップの設立

Matt Giteau
Wigglesworth (左後ろ) のタックルを振り切るトゥーロンの Matt Giteau

2014年4月10日、メディアはこぞってハイネケン・カップ(とアムリン・チャレンジ・カップ)に代わる新欧州クラブ競技会の設立協定が調印されたことを報じた。RFUの発表によると協約期間は最低8年間で、競技会を組織し管理する団体は European Professional Club Rugby (EPCR) と呼ばれ、欧州ラグビー・チャンピオンズ・カップ "European Rugby Champions Cup" と欧州ラグビー・チャレンジ・カップ "European Rugby Challenge Cup" を主催、さらにこれら二つに次ぐ第三(下部)の国際競技会「選考コンペティション」"Qualifying Competition" が新設されるとのこと。チャンピオンズ・カップ、チャレンジ・カップともに4チームずつ5組の20チーム形式でホーム・アンド・アウェイ方式の対戦が行われ、それぞれの組の勝者と次点の最上位3チームが準々決勝へ進む。決勝戦 (2015年の会場はトゥイッケナム・スタジアム"Twickenham Stadium") は遅くとも5月の最初の週末に開催される (5月2日に決定)。資金の分配方法については「三等分」となっているが、厳密には最初の5年間はプロ12のチームに若干有利になっている (プロ12のチームが5年間トップ14とプレミアシップのクラブより多く受け取るという意味ではない)。

結果的にはイングランドとフランスのクラブがほとんど全ての目標を達成したような印象があるが、実際彼らはプロ12からの出場チームがどう決められようがどこから何チーム参加しようが誰が優勝しようが大して気にしちゃいなかったと想像する。恐らくPRLとLNRにとって真の狙いは利益の拡大にあったと言えるだろう。好むと好まざるとにかかわらず今のプロ・ラグビーは商売であるがため営利的なのは当然で、彼らが金と力を追求することを責められないのではないかと思う。

まさに土壇場で危機を脱した欧州クラブ杯だが、IRB議長Bernard Lapassetの楽観的な言葉通り、その新たな協約と大会構造が欧州ラグビーのレベル向上に効果をもたらすことを期待したい。

 

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